前回のブログでは、幼年期のレジスタンストレーニングに対するありがちな偏見について語りました。
結論からいうと、
ジュニア世代のレジスタンストレーニングは運動能力の発達に非常に良い働きをする。
ということでした。
そこで今回は、
・なぜレジスタンストレーニングは子供の運動能力発達に良いのか
・レジスタンストレーニングで期待できる体の変化
についてお話していきたいと思います。
レジスタンストレーニングがもたらす効果
Faigenbaum et alが2010年に出した論文の中で、レジスタンストレーニングから期待できる効果を以下のように述べています。
①骨格筋構造の変化による筋パフォーマンス向上(筋力、パワー、筋持久力の向上)
※パワー = 筋力 ではありません。パワーとは瞬間的に筋力を発揮する能力のことで『筋力×スピード=パワー』を意味します。
②神経系能力の向上
③骨密度の増加
④カラダ構造の改善
⑤怪我の予防
⑥競技パフォーマンスの向上
⑦運動に対する姿勢がポジティブになる
ご覧のようにレジスタンストレーニングから多くの効果が得られるのがみてとれます。
それでは、少し深く踏み込んでいきたいと思います。
骨格筋構造の変化
レジスタンストレーニングによってまず骨格筋に変化が現れはじめます。
レジスタンストレーニングがもたらす効果としては、
・筋肥大
・筋構造の変化
・筋繊維タイプの変化
などが期待できます。
この骨格筋に起こる変化が結果として筋力・パワーの向上につながっていくのですが、子供の場合のおこる変化は大人と少し違ってくるようです。
例えば、筋肥大に関していうと幼年期では大人と比べそれほどまで筋肥大はおこらないのでは?
と考えられています。
この理由として、アナボリックホルモン(筋肉の合成を促進するホルモン)が子供の場合は大人と比べ少ないため、もともと筋肥大自体がおこりにくいと考えられています。
その観点から、幼年期の筋力とパワーの向上はどちらかというと筋肥大ではなくて神経系能力の改善によるものではという説が強いです。
各年代別でトレーニング効果を調べたKanehisa et alの研究でも筋肥大の効果が見えはじめるのがだいたい13ー15歳、そして年齢と共に筋肥大の割合が高くなる傾向がみられた報告しています。
そこから察するに、特に成長期前の年代で筋肥大がおこる割合はあまり高くないのかもしれません。
さて、レジスタンストレーニングでは筋繊維タイプの変化や筋構造の変化も期待できるとお伝えしました。
これに関してですが、現段階ではエビデンスレベルとして低いと考えられています。
ただし、レジスタンストレーニングによって筋繊維タイプの変化は症例として数多く報告されていますので、一概におこりえないとは言い切れないです。
例えば、筋繊維タイプは遅筋(Type I)と速筋(Type IIa, IIx)とに大きく分けることができますが、これは元々カラダのどのくらいの割合をどの筋繊維が占めるか遺伝によってほとんど決められています。
しかし、レジスタンストレーニングによりType IIaの速筋線維が増加したケースも報告されているので、トレーニングによって筋繊維に変化があらわれる可能性も十分に考えられます。
また骨と筋肉を繋いでいる腱(Tendon)は、本来であれば成長と共に強度が上がってくるのですが、これもレジスタンストレーニングによって強度が高まることがわかっています。
ただし、腱の強度を強化するにはそれなりの負荷が必要となってきます。
例えば、ランニングなどのLow load cyclic loading(低強度負荷)の負荷ではなかなかこの適応を起こすには十分でなく、ガッツリと負荷をかけたウエイトトレーニングなどのHigh Magnnitude Loading(強強度負荷)でないと腱を強化することは難しいとのことです。
神経筋能力の向上
従来、神経系の能力は生後から著しく向上していき、12歳くらいまでになるとほぼ成人の100%までに達します。
神経系の能力の向上が著しいこのゴールデンタイムにレジスタンストレーニングを取り入れることで、飛躍的にその能力を向上することができます。
例えば、幼年期でおこる筋パフォーマンスの向上は先ほどもあげたように神経系の改善が大きく寄与しているとお伝えしました。
トレーニング初期の神経系能力改善で起こる筋力の向上は大人でもみられることですが、子供ではそれ以上にこの効果が期待できるようです。
この理由として、トレーニングよって運動単位(Motor Unit)という筋繊維を支配する運動神経のユニットが数多く動員されるようになること(より多くの運動単位が動員されることで大きな力が発揮できる)、神経伝達速度が向上することで大きな筋力を発揮することができるようになります。
この神経系能力の改善がジュニア世代では成長期と合わさることでその効果を最大限に得ることができます。
また、成人と比べ、幼年世代はRate of Force Development (RFD)と呼ばれる最大筋力発揮までにかかる時間が遅い傾向にあるといわれています。
まず、生理的に私たち人間が筋肉を働かす(筋収縮)原理として、脳からの信号が運動神経を介して筋に行き渡ることでおこります。
『筋収縮させよ』という脳からの司令からその信号が運動神経を介して筋に到達、そこから筋収縮をさせるまでの間でミクロ単位で時間的ロスが生まれてしまいます。
そしてこのロスが大きければ大きいほどRFDまで到達する時間が長くなり、結果的にパワーなどの能力が低下してしまいます。
幼年世代では大人と比べ神経伝達速度が遅いので、必然的にRDFも長くなってしまうのですが、
神経系速度伝達はレジスタンストレーニングによって改善できることが可能なので、ジュニア世代でも十分にRFDを改善し筋力を高めることは可能です。
骨の成長を促す
近年、高齢者で骨密度が減少した骨粗鬆症の人口が増えてきていることが大きな社会問題となっていますね。
骨密度の低下によって骨折のリスクが高まるだけでなく、高齢者の場合は骨折後そのまま寝たきりとなるケースが多いです。
これによって、体力・免疫力の低下・痴呆症・他の精神的病気を併発するリスクも高くなるなど現代社会の大きな医療・福祉問題にもなっています。
近年の研究では、骨密度が低くなる原因として幼年期に十分に骨の成長を促すことができなかったことが原因としてあげられています。
骨の成長は後期青年期の18歳までにピークに達するといわれていますが、このピーク値が低すぎると将来的に総体的な骨密度が低くなってしまい、骨粗鬆症を発症するリスクが高まるということがいわれています。
骨の成長はOsteoblastという細胞が骨の合成を促進していくのですが、このOsteoblastを活性化するためには骨自体への刺激が欠かせません。
効果的に骨への刺激を加えるには自体重をかけることが良いとされていますので、普段のウォーキングやランニングによっても十分にこの効果を得ることができます。
ただ、骨にかかる負荷に比例して骨密度は増加していきますので、レジスタンストレーニングなどの重りを使ったトレーニングによって骨の成長をより効果的に促進することが可能となります。
つまりレジスタンストレーニングは一番効率よく骨の成長を促進させる方法でもあります。
面白いことに水泳選手は比較的に骨密度が低いといわれています。
この原因として水泳選手は水中での時間が長く、体重をかけた骨への刺激が足りなくなってしまうからではないかと推測されています。
水泳選手にウエイトトレーニングが推奨されている要因もこのことが大いに関係しているかもしれません。
いづれにせよ、トレーニングによって骨に刺激を与えることが骨の成長には大切となります。
肥満防止

現代社会の総体的な運動不足による肥満人口の増加は若い世代にも波及するほど深刻な問題となりつつあります。
遊びの多様化、スマートフォンの普及などによるテクノロージの進化によってますますスポーツ人口や外で遊ぶ機会が減ってくるのはこの先も否めません。
肥満気味の子供達は総体的な身体運動の時間が足りていない、栄養の偏りなどが原因となっている場合が多いですが、レジスタンストレーニングによってカラダ自体に変化を引き起こすことができるかもしれません。
McGuian et alがおこなった研究で、子供にレジスタンストレーニングを8週間おこなわせたところ肥満体型の子供の体脂肪を大幅に減少することができた(理想の体脂肪:Boy 10-20%, Girl 15-30%) と報告しています。
このようにレジスタンストレーニングで得られる体組成の改善、体重コントロールへの効果が多くの研究によって証明されています。
ただし、運動ならば何をおこなっても肥満解消に効果があるというわけではないようです。
ここで大切なのは、適正な負荷(Oveloadの原則)をかけてあげることです。
この良い例として、レジスタンストレーニングを中心にトレーニングしている子供のグループ VS スポーツに従事しているけどレジスタントトレーニングなどはおこなっていない子供のグループを比較した研究で、レジスタンストレーニングをおこなうグループの方がより目標とする体脂肪率まで減らすことができたと証明しています。
また、面白いことにレジスタンストレーニングのグループはその後も適正な体脂肪率を維持できる傾向があるということがわかっています。
さて、子供にスポーツをおこなわせているのになかなか体質の改善に繋がらないという経験をお持ちの親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
もしかしたら、体組成に変化が現れるほどの適応な負荷をその運動から得られていなかったことも考えられます。
このことからも、多種多様な動きで筋肉に適正な負荷をかけることができるレジスタンストレーニングは、最も効率よく体組成の改善を促すことを可能にしてくれることでしょう。
運動の習慣化

生涯を通して運動をおこなうことってすごく大切とはわかっているけどなかなか継続することが難しいですよね。
特に若い頃にあまり運動をしてなかった方達はまず何をしていいかもわからず、食事制限のダイエット中心に減量する傾向がみられます。
これに比べ、レジスタンストレーニングを子供の頃からおこなってきたグループは、傾向として成人以降も習慣的に運動に従事するということがわかっています。
確かに、アメリカは肥満大国だといわれていますが(あちらからすればこちらは飢餓らしい笑)、ジムは毎日のように混み合ってますし、運動の意識はめちゃめちゃ高いです。
個人的な意見ですが、こういうジムで運動をおこなっている人たちは昔から運動の習慣がついていた人たちであり、運動が習慣化していると、生活の習慣にもメリハリがついてくると思います。
例えば、
”今日は筋トレをするから仕事はこの時間で終わらすぞ”という意気込みや、”仕事前に運動終わらせたいから少し早起きをしよう”という生活のリズムを掴む手助けにもなると思います。(完全な個人的体験ですいません)
さらにレジスタンストレーニングで体質が改善すると、様々な方面で恩恵が生まれてきます。
例えば、体質の改善によって自分に自信がつきだすと、それが学力、運動力、さらに社交性といった分野にまでポジティブな効果をもたらします。
私が大好きな鋼の錬金術師の中でも「精神は肉体を鍛えることで強くなる」とイズミカーティス先生がおっしゃっていましたので、カラダを鍛えることで心に変化が生まれるという説はやはり間違いないのでしょう。
アメリカの高校生・大学生くらいのマッチョ達を見てみてください。いつも自信に満ち溢れています。
怪我の予防
前回のブログでも少し触れましたが、レジスタンストレーニングをおこなうことによって、怪我のリスクを減少させることができます。[Michelli et al, Heidt et al, Cahill et al, Faigenbaum et al …..]
これはいくつかの要因が考えられます。
①総体的な筋力の向上
②神経系能力の改善
③リスク回避のテクニックの向上
例えば、女子は膝の前十字靭帯を損傷する確率が男子と比べてかなり高いですが、これは総体的な筋力が男子よりも劣ることが一つの要因とされています。
女性はもともと男性よりも関節の弛緩性が高い傾向があるので、関節の安定性を保つことからも大腿四頭筋やハムストリングの筋力は非常に重要な役割を果たしてくれます。
さらに先ほどの前十字靭帯を例にとれば、体の動きをコントロールする意味で神経系の働きは非常に重要となってきます。
神経系トレーニングが前十字靭帯損傷予防に効果的であるということは多くの論文でも実証されていますし、より体をコントロールする能力(Motor Control)が身につけば、その分怪我のリスクを回避することができます。[Sugimoto et al, Hewitt et al , Petusheck et al….]
また、これはリスク回避にも関係することですが、運動時に適切な体の位置を保つためには、神経系能力の向上が欠かせません。
このようなことからも筋力、神経系能力の改善を促進するレジスタンストレーニングは怪我の予防にとても効果的といえます。
このようにジュニア世代のレジスタンストレーングは様々な面で恩恵をもたらせてくれます。
次回のPart IIIでは、具体的にどのようなトレーニングをおこなえば良いのかを紹介していきたいと思います。
今回もご精読ありがとうございました。
アオキリョーキ
